2013年1月16日
「人生の特別な一瞬」 長田弘 晶文社
15年くらい前の12月、いくつかの詩集の紡がれた言葉に、力をもらったのです。
「こんなまま生きていっていいのだろうか」と漂流していた時でした。
だからでしょうか、冬になると何故だか詩集が読みたくなります。
昨年暮れに読みました。
長田さんの、32篇の詩文集です。穏やかな気持ちになります。
今は就寝前の少しの時間が読書の時間ですが、この本を読む理想的な環境は、静かな朝か夕暮れに、山の見える小屋で、ゆっくりとお茶を飲みながら、です。
あとがきを一部引用します。
人生の特別な一瞬というのは、本当は、ごくありふれた、なにげない、あるときの、ある瞬間の光景にすぎないだろう。そのときはすこしも気づかない。けれども、あるとき、ふっと、あのときがそうだったのだということに気づいて、思わずふりむく。
ほとんど、なにげなく、さりげなく、あたりまえのように、そうと意識されないままに過ぎていったのに、ある瞬間の光景が、そこだけ切りぬかれたかのように、ずっと後になってから、人生の特別な一瞬として、ありありとした記憶となってもどってくる。
特別なものは何もない、だからこそ、特別なのだという逆説に、わたしたちの日々のかたちはささえられていると思う。人生は完成でなく、断片からなる。『人生の特別な一瞬』に書きとどめたかったのは、断片のむこうにある明るさというか、ひろがりだった。